2012年2月21日 著者・編集者による「自著紹介」 第26回
『ひとりで死んでも孤独じゃない 〜 「自立死」先進国アメリカ 〜 』(矢部武/新潮新書)
首都圏のワンルームマンションで住民が「臭い、臭い」と騒ぎ出し、管理人が部屋を開けたら、中年男性が倒れていた。部屋には死臭が充満し、絨毯の上には無数のウジ虫がうごめいていた。男性は数年前に離婚し、十代の娘は元妻のもとに引き取られたがほとんど音信不通状態で、死後一カ月以上誰にも気づかれなかったのだ。
日本ではいま、このような悲惨な「孤独死」が日常的に起きている。東京都監察医務院によると、東京23区では毎日平均11人が「孤独死」し、20年前と比べ約3倍に増えているという。日本はなぜこんな社会になってしまったのか。メディアは「孤独死、孤独死・・・」と大騒ぎするだけでは、人々の不安を煽るだけで何の解決にもならない。日本でなぜ「孤独死」が急増しているのかを冷静に分析し、独居者の孤立を防ぐ対策などを提案するのもメディアの役割ではないか。私はそう考えて、日本とアメリカで「孤独死」の取材を始めた。
20歳の時に初めて渡米して以来、35年以上アメリカと付き合っている私だが、今回の取材では新たな発見がいろいろあった。
個人の自由、自立を大切にするアメリカ人は年をとっても子供や孫といっしょに住もうと思わない。たとえ病気や障害をかかえていても住み慣れた自宅や、専用住宅などで自立した生活を続けようとする。アメリカには独居者は多いが、日本のように孤立したあげくに死後何週間も発見されないという悲惨なケースはあまり起きていない。それはなぜか。
アメリカは基本的に一人で生きることを前提にした社会であり、それゆえに一人暮らしの不安や問題をよく認識し、孤立や「孤独死」を防ぐための支援活動に積極的に取り組んでいるからだ。
アメリカでは「孤独死」ではなく、友人や社会のつながりをもち、一人暮らしを楽しみながら死んでいく「自立死」が多い。一人で亡くなるという点では共通しているが、絶望的な響きのする「孤独死」に対し、自由と自立を大切にする「自立死」には前向きなニュアンスが感じられる。
要は一人で亡くなることが問題なのではない。孤立したあげくに亡くなり死後何週間も発見されずに遺体が腐敗し、他の人に迷惑をかけてしまうことが問題なのだ。これを防ぐには日本の社会全体が独居者の自立を支援し、孤立を防ぐ社会システムをつくりあげることが必要だ。本書はそのための具体的な方法も提案している。
「孤独死」と言うのはもうやめよう、これからは「自立死」と言おう。これが本書にこめたメッセージであり、私の「遺言」である。
(2012年2月20日、矢部 武)
本書の内容(目次)
- プロローグ
- 第一章 一人で生きることを前提にした社会
- 第二章 独居死、必ずしも「孤独死」ならず
- 第三章 不幸な結婚生活による「同居の寂しさ」
- 第四章 100歳を過ぎても働き続けたい
- 第五章 独居者の孤立を防ぐ地域支援体制
- 第六章 コーハウジングという住み方
- 第七章 「おひとりさま」の不安を取り除くために
- エピローグ
矢部武(やべ たけし)
一九五四年埼玉県生まれ。ジャーナリスト。一九七〇年代半ばに渡米し、ロサンゼルス・タイムズ東京支局記者等を経てフリーに。銃犯罪、人種差別、貧困格差など米国深部に潜むテーマを抉り出す一方で、環境・社会問題などを比較文化的に分析し、解決策をさぐる。『携帯電磁波の人体影響』(集英社新書)、『アメリカ病』(新潮新書)、『世界で一番冷たい格差の国・日本』(光文社)、『人種差別の帝国』(同)、『少年犯罪と闘うアメリカ』(共同通信社)、『携帯電磁波の人体影響』(集英社新書)、など著書多数。
第25回『アメリカ陰謀論の真相』(奥菜秀次/文芸社)
第24回『回転寿司の経営学』(米川伸生/東洋経済新報社)
第23回『資産フライト 「増税日本」から脱出する方法』(山田順/文春新書)
第22回『アウトドア de 世界のどこかの昼ゴハン』(中山茂大・阪口克/日本写真企画)
第21回『超大恐慌の時代』(藤井厳喜/日本文芸社)
第20回『いま、知らないと絶対損する年金50問50答』(太田啓之/文春新書)
第19回『出版大崩壊』(山田順/文春新書)
第18回『中国最大の弱点、それは水だ!』(浜田和幸・著/角川SSC新書)
第17回『携帯電磁波の人体影響』(矢部武・著/集英社新書)
第16回『ただ、誠を尽くして浮世を渡る』(高橋淳子・著/日本出版社)


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